愛犬との別れ

 こんにちは。長野県小諸市で、小児はりをやっている八角堂の院長、八角です。

 私には赤ちゃんの頃から12年間一緒に過ごした、柴犬の「花」という愛犬がいました。子供の遅かった私達夫婦にとって、多くのことを教えてくれた、かけがえのない命でした。出会った時、仔犬としては売れ時を過ぎた6か月で、荒川区三ノ輪のオリンピックのペット売り場にて、一番下段、一番隅のケースの中で、安売りされていました。そののんびりとした性格に、初対面ですぐ好きになり、一度家に帰ったものの、夕方には夫と迎えに行きました。移動が多く旅好きな私達と共に、長野、能登半島、飛騨...、多くの場所へ共に旅をしました。 特に彼女は小諸の家が好きで、小諸の自然の中でよく駆け回っていました。

 2025年の夏から、頻繁に嘔吐を繰り返し食事量が目に見えて減り、病院で検査を受けたところ、胃の幽門付近に腫瘍が見つかりました。 MRIを撮り、全身のリンパに転移している事が判明。医師からは「これ以上の生は苦しみを長引かせる」「10日後生きているかも分からない」という言葉がありましたが、そんなこと急に言われても気持ちの整理がつくわけもありません。 柴犬はアレルギー体質の子が多く、花もずっとステロイドを服用していました。 「もう少し早く見つけられれば...」という気持ちが今も残っています。
 花は食事を摂らなくなり、どんどん小さくなりました。 夏に夫が渡独し、夫が大好きだった花はいつも夫を探す様子を見せていました。 玄関で家族を待ち、エネルギーを摂らない身体で坂道を登って家族を探し、馴染みの家に顔を出し、お気に入りの場所へ出向き、帰りは疲れて歩けずに抱っこで帰る日々が続きました。
空腹でお腹が鳴ることもありましたが、時折ハムを食べる以外、何も食べませんでした。 一度、鶏を煮たスープを美味しそうに飲んでくれましたが、数時間後にお腹を壊してしまい、それ以降は口にしませんでした。
 気持ち悪かったのでしょう。いつもよだれを垂らしていました。幽門付近の腫瘍のせいか反射的にえづいてしまい、直接、嘔吐中枢を抑える薬を1日2回服用していました。薬を嫌がっていましたが、えづく姿を私が見ていられず、粉薬をペースト状にして、ベロになすりつけるようにして与えていました。



 ある時から水分を摂りづらくなり、お小水も出なくなりました。 栄養失調による内臓不全と想像され、時間の問題だなと思いました。 身体が動かなくなり、首も座らず、動きたい時、寂しい時、怖い時に「キュンキュン」と鳴くようになりました。お小水が出なくなって3日目、もう薬を飲ませるのをやめ、明日まだ生きていたら獣医さんに相談しよう、そう思ってベッドに入った次の日の朝、花は冷たくなっていました。その身体の下に手を入れると、まだ温もりが残っていました。
 少し死生観的な話になりますが、犬や猫などの動物は、人間との関わりが深いため、輪廻の輪から抜け出しにくいと言われます。 唯でさえ六道輪廻の畜生道に位置する花は、ちゃんと天界へいけたのだろうか…と不安に思っていると、翌日に偶然会った視える友人が「空に大きな鳥と龍が現れて、花ちゃんが空へ昇っていくのを見たよ。すっごいぴょんぴょん跳ねて、ほんと嬉しそうだったよ」と教えてくれました。 嘘をつく人ではないので、ほっとしました。
 身体を持つ限り、誰しも自由にはなれません。 花は身体から解放されて、やっと楽になったのだと思います。 あんなに食いしん坊だった子が2ヶ月も絶食を強いられたのですから... 。長野の自然の中を駆け回っていた花が、空に向かって駆け上がっていったのは容易に想像できます。

 実際は、残された私の方が残念だなと感じています。お釈迦様は「愛しすぎてはいけないよ。この世にあるものは、いつか必ず無くなるのだから」と愛別離苦について説いていましたが、まさに絶賛実感中です。赤ちゃんの頃から一緒に過ごした花の温かさと柔らかさ、優しい眼差し、愛情深さ、気難しさ、何気ないそぶり、出迎えのダンス、そんな全てを恋しく思います。
 亡くなる数か月間の苦しむ姿を見続けたこと、花という光のような存在を見送ったこと。じわじわと心を蝕んできたそのダメージから、まだ回復しきれません。「この苦しみを癒すには、また犬を飼うしかない!」と、小諸のハローアニマルのサイトまで見ましたが、現在、里親を募集している子はいませんでした。 本当に良かった...
 ありふれた言い方ですが、花は私たち家族の心の中に生きています。プライドの高い子で、亡くなる数日前まで背筋を伸ばし、美しくあろうとしていました。 骨と皮だけになった身体でもピンと姿勢を正し、外の景色を見ていたあの気高さは忘れられません。身体が思うようにいかなくて悔しかったと思います。 愛している夫に、恋敵の私に、弱った姿を見られるのが嫌だったと思います。
 最期まで美しく、気高くあることを花が教えてくれました。ちょっと私の祖母みたいだなとも思いました。具合の悪くなった身体を嫌がり、自分で自分のケアができない状況を恥じていましたから…。花との優しい思い出を胸に、悲しみを受容し、ゆっくり心の整理をつけていこうと思います。最後まで読んで下さり、ありがとうございました。

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